毎日「1時間」が蒸発していた — AI業務管理秘書たすきばを作った理由
「あのデータ、どこだったっけ?」
会議中、誰かが資料を探しはじめる。10 分が経つ。参加者は 6 人いる。
組織から見れば、その瞬間に 60 分 = 1 時間ぶんの人件費 が、ただ情報を探すためだけに消えています。私はこの光景が、たぶん何より苦手です。
会議は本来、意見を交わして意思決定する場所のはずなのに、その時間が「あれ、どこだっけ」で食い潰されていく。クリエイティブに使われるはずの時間が、毎日少しずつ蒸発していく。
この毎日蒸発する 1 時間を取り戻す仕組みを作りたい——これが、私が業務 SaaS 「たすきば Knowledge Relay」 を作っている、いちばん最初の動機です。
「蓄積はできる、利活用は苦手」というツールばかりだった
私は前職で WebDB 型のローコードツール開発と、その導入支援に長く携わってきました。データの溜め方は非常に柔軟で、現場ごとの作り込みもできる、本当に良いツールでした。
それでも、ずっと違和感がありました。
データを蓄積管理することはできても、利活用するのが、少し苦手。
10 件なら誰でも探せます。けれど 1,000 件になると、人の目では必ず抜け漏れが生まれる。そして抜け漏れたデータは、 意思決定者の目に触れないまま「存在しないもの」として扱われていく 。せっかく溜めた知見が、実質ゼロとして扱われる現場を、私は何度も見てきました。
全文検索という機能はどこにでもあります。けれど検索結果を 1,000 件並べられて「あとは目で確認してね」と言われた瞬間に、 その検索は実質的に “使われない検索” になります。
形式化されていない経験が、誰かにしわ寄せる
もう一つの問題意識は、 属人的な判断のしわ寄せ です。
たとえば私のいる現場の PM(プロジェクトマネージャ)は、とても優しい人です。受け入れテスト期間中にユーザから出てきた 仕様追加の要望まで取り込もうとしてしまう 。
「不具合は取り込むが、仕様追加はデグレや品質低下を招くので取り込まない」——これは経験者なら身体感覚で持っているはずの線引きです。でもその線引きは、たいてい 形式化されていません 。だからその PM の優しさが、暴走しても、誰も止められない。
被害を受けるのは現場の開発者です。連日 12 時間労働が続き、チームに不機嫌が広がっていく。
これは「PM 個人の判断ミス」と矮小化して済む話ではありません。失われているのは 時間 だけでなく、 チームの空気、開発者のクリエイティブな時間、そして長期的には組織全体の信用 です。
そして私は、これを PM 個人の資質を責めるべき話だとも思っていません 。PM の優しさを客観的に制御する 過去の形式知 が、適切なタイミングで取り出せていればよかった、と思うのです。
解決したいのは「人間がクリエイティブな仕事に時間を使えていない」構造
整理すると、私が解きたい問題はひとつに集約されます。
人間が本来やるべきクリエイティブな仕事に、時間を使えていない。
検索時間という形であれ、属人的な判断ミスのしわ寄せという形であれ、結局は同じ構造の現れです。 『ティール組織 入門』読書ノート — ピラミッド型の限界と、自走できるチームの作り方 で「権限委譲できないのは、判断材料が個人にしか宿っていないからだ」と書いたのも、根は同じです。
データは、溜まっているだけでは資産ではありません。 利活用されてはじめて、資産になる 。だから、たすきばが解こうとしているのは「検索精度を上げる」ことではなく、 「埋もれているはずの過去資産を、必要なタイミングで自然に目の前へ運ぶ」 ことなのです。
なぜ “私が” 作るのか
市場には、プロジェクト管理ツールもナレッジ管理ツールも数多くあります。Notion も Jira も Confluence も、本当に素晴らしいツールです。
それでもどのツールも、 データの蓄積に長けている一方で、検索性に長けたものは、私の知る限り見当たりません 。全文検索だけでは、量が増えた瞬間に「使われない検索」になる。同じ痛みは、複数の現場で繰り返し目にしてきました。
そんなツールを自分が欲しいと思った結果、 作ってしまおう という結論に至りました。これが「私が作る」理由です。
そしてもうひとつ。私は今後 プロジェクトマネージャを目指しています 。その先には、 心理的安全性は「知っている」だけでは届かない — 理解→設計→実装→再現の 4 段階 で書いたような、 心理的安全性の高い組織を構築する という個人的な夢があります。たすきばは、その夢に向かう自分のための「装置」でもあるのです。
連載「個人開発で SaaS を立ち上げる」を始めます
今日から、たすきば Knowledge Relay にまつわる思想・設計・運用を、しばらく連続して書いていきます。
| 章 | 内容 |
|---|---|
| A 章 | 思想・原点ストーリー(本記事を含む 6 本) |
| B 章 | プロダクト概要・リリース告知(4 本) |
| K 章 | コミュニティ・募集・文化(4 本) |
| L 章 | リリース後・ロードマップ(3 本) |
| 補章 | マスコット / 6 ヶ月振り返り(3 本) |
正式リリースは 2026 年 6 月 1 日 。それまでに「世界観」を、リリース後に「これからどう続けていくか」を、順番にお伝えします。
地味なテーマです。派手な成長戦略の話でもありません。ただ、 毎日 1 時間ずつ蒸発している時間を、本当に取り戻したい と本気で思っている人にだけ、届けばよい連載だと思っています。
次回は、この問題意識を 「日曜の夜と月曜の朝」の景色を変える という具体的な世界観に置き直した話を書きます。
「探す時間」に関するよくある質問
Q. 資料や過去の情報を探す時間を減らすには?
A. ファイルやチャットを「自分で探しに行く」構造そのものを変えるのが近道です。たすきばは過去のプロジェクト・ナレッジ・振り返りを覚えておき、いま必要な情報を意味検索で自動的に提案します。キーワードが一致しなくても文意で関連を拾うため、「どこにあったか思い出す」工程ごと省けます。
Q. プロジェクトのナレッジが蓄積されない・見つからないのはなぜ?
A. 多くの場合、蓄積先がチャット・メール・Excel に散らばり、検索しても見つからないことが原因です。情報は貯めるだけでは資産になりません。必要な瞬間に差し出される仕組みがあって初めて活きます。本記事で書いた「毎日 1 時間の蒸発」は、まさにこの“見つからない”が積み重なった結果です。
Q. 過去のプロジェクトの振り返りを次に活かすには?
A. 振り返り(KPT やリスク・課題の記録)を、次のプロジェクトの似た局面で自動的に思い出せる状態にしておくことが鍵です。たすきばは過去の振り返りを意味検索の対象として保持し、関連する場面で「なぜ関連するのか」とともに提案します。
関連記事
- 「たすきば Knowledge Relay」試験運用始めます — プロジェクトの知見を次につなぐ襷 — たすきばの最初の公式アナウンス
- 『ティール組織 入門』読書ノート — ピラミッド型の限界と、自走できるチームの作り方 — 属人化が組織を窒息させる構造の話
- 心理的安全性は「知っている」だけでは届かない — 理解→設計→実装→再現の 4 段階 — たすきばが向かう先にある「組織の夢」
たすきば について
たすきば Knowledge Relay は、過去プロジェクトの資産を 意味検索で自動提案 する業務 SaaS です。正式リリースは 2026 年 6 月 1 日。詳細は プロダクトページ をご覧ください。