OJTの本質は「教えること」ではなく「自立できる状態の設計」だった
「後輩の指導を任されたけれど、何から手をつけていいかわからない」「つい自分でやってしまい、いつまでも後輩が一人立ちしない」。こうした悩みを抱えるトレーナーは、決して少なくないと思います。私自身、ある研修を通して、まさにこの壁にぶつかっていた自分に気づかされました。
OJTの最終到達目標は「一時的なスキル習得」ではない
研修で最初に提示されたのは、想像より大きな視点でした。OJTの最終到達目標は、一時的なスキル習得ではなく「人が育つ風土の定着」にある、という考え方です。
人が育つ組織を作るには、①環境(戦略方針・人事制度などの仕組み)、②スキル(体系的な育成手法)、③マインド(育てることへの主体的な姿勢)という3つのレイヤーが重なり合う必要があります。特に印象的だったのは③マインドの話でした。「自分が苦労したから、後輩にも同じ苦労をさせる」——これは一見”鍛える”ように見えて、実は育成の放棄に近い行為です。過去の苦労を美化するのではなく、その苦労を踏まえて後輩にはもっと良い道を用意する。この自責思考への転換こそが、育成の出発点なのだと感じました。
半年で「支援なし」の自立へ導くロードマップ
研修課題として、「業務背景や目的を理解したうえで、6か月後までに後輩が上司の支援なしでシステムの仕様・設計を一人で説明できる状態にする」というゴールを設定し、逆算でフェーズを設計しました。
| フェーズ | テーマ | 学習サイクル |
|---|---|---|
| 1(なぜ) | 存在意義・課題解決目的の理解 | 調査する→説明する→修正する |
| 2(何が) | 実機操作を通じた機能俯瞰 | 動かす→疑問を持つ→調査する→聞く |
| 3(どう) | 仕様書・設計書から設計思想を読む | 読み解く→書き起こす→レビュー |
| 4(統合) | 業務背景・設計・機能を1つの資料に整理 | 構成する→書く→中間レビュー→修正 |
| 5(自立) | 指導者同席のもとステークホルダーに説明 | リハーサル→本番→振り返り |
各フェーズで一貫していたのは、「調査しておいて」「読んでおいて」で終わらせず、説明の場とフィードバックの場をセットで設けること。そして分からなかった部分を歓迎する姿勢を示し、後輩が「分からない」と言える心理的安全性を作ることでした。この姿勢は、心理的安全性は「知っている」だけでは届かないで書いた、理解を実装まで落とし込む話とも重なります。
つまずきは「氷山モデル」で深層原因を捉える
後輩がつまずいたとき、表面に見えるミスだけを指摘していないでしょうか。研修では、つまずきの原因を氷山モデルで分析する考え方が紹介されました。水面上のミスや行動の下には、スキル不足(再度OJTで伴走)、マインドの課題(問いかけで本人も気づいていない部分にアプローチ)、モチベーション低下(過去の本人との比較で成長を承認)という3つの深層原因が隠れています。すぐ答えを言わず、問いかけで気づかせるという姿勢は、マネージャの仕事は「答え」ではなく「問い」だったで書いた、相手を能動的な存在として見る問いかけ方そのものでした。
トレーナーに求められる5つの姿勢
| 姿勢 | 具体的な行動 |
|---|---|
| 焦らない | 成長のペースは人それぞれ。計画に沿って伴走する |
| すぐ答えを言わない | 問いかけで考えさせ、本人の中から答えを引き出す |
| 本人の言葉を待つ | 沈黙を恐れず、自分の言葉でのアウトプットを見守る |
| 失敗を次につなげる | 責めるのではなく、振り返りの材料として活かす |
| 成長を明確に承認する | 「一人でできるね」と言葉にして伝える |
特に「すぐ答えを言わない」は、日々の業務で最も難しいことのひとつです。忙しいときほど「こうすればいいよ」と答えを渡してしまいがちですが、その瞬間の効率を優先するたびに、後輩が自分で考える機会を奪っている。このことを研修で改めて突きつけられました。「一人でできるね」という一言は、単なる評価ではなく、自律性は「与える」ものでもあるで書いた、自分のふるまいが相手の自己効力感を支えるという実践そのものだと感じています。
さいごに
単に知識を渡すだけなら、説明会や資料配布でもある程度は可能です。でも後輩が本当の意味で「育った」と言えるのは、自分で考え、自分で調べ、自分で整理し、自分の言葉で説明できるようになったとき。ここまで到達して初めて、OJTとしての価値が生まれるのだと実感しました。
そして、後輩をその状態へ導くために、トレーナー自身にも覚悟と姿勢が求められる。育てることは、自分自身も成長すること。後輩の成長を設計する過程で、トレーナーもまた育っていく。その実感を持てたことが、今回の研修で得た最大の収穫でした。
実際に作成した6か月間のOJT計画テンプレートの中身は、OJT計画テンプレートの使い方で紹介しています。
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